第59章 匂い
梓さんには以前、大事に思ってる人がいるんだと伝えたことがある。
誰とは伝えたなかったけれど。
「え、めぐみさん別の男性のとこいたの?」
「そうそう!!もうやめよ!この話!おしまい!」
コナンくんに意外って顔で見られながら、私は洗い物を終えた。
「やだなー、めぐみさん、別にそこは僕って言っても構いませんよ。」
ガチャン!!
洗い物を終え、コップを拭いているとバックヤードから声が聞こえてきて私は持っていたコップをいよいよ落として割ってしまった。
安室さんだ。
お昼からのシフトもう来たようだ。
「あ…え…?」
いいの?秘密じゃないの?
……いいの?
「えっ!?めぐみちゃん安室さんと付き合ってたの!?」
「え…?」
梓さんに言われ、どうしたらいいのかわからなくて私は安室さんに視線を向けた。
「やっと僕の思いが届きました。」
「えっ!?」
「なーんだ、めぐみちゃん言ってくれたらよかったのに!」
「僕が探偵とかで誰かの恋人の役とかやらざるを得ない時とかもありますから、きっと僕に気を遣ってくれたんですよ。ね?めぐみさん。」
「えっ!?」
私と梓さんの間に立って、にこにこ笑う安室さん。もう、『え』しか言えない。
「ほら怪我しますよ。退けてください。」
「えっ…!あっ、ごめんなさい!」
コップを、割ってしまったことを思い出して慌ててシンクからカップを取り出そうしたが、その手首を掴まれた。
「こら、怪我するでしょう。」
「あ、ありがとう。」
「もう!いつからとかどうやってとか色々聞きたいー!職場恋愛だね!」
「ははっ、あんまりめぐみさんいじめないでくださいね。」
「私は!何も言いませんから!全部安室さんに聞いてください!」
絶対ボロがでる!
今回のシャンプーだって誤魔化せなかった!
コナンくんは呆れた顔をしながら安室さんを見て、
「おいおい、めぐみさん困ってるじゃねーか。」
と、私にしか聞こえない声でぽそりとつぶやいた。
「本当にこう言う人って、困るよね。じゃ、私裏に行くね?またね。」
私はコナンくんにこそっと伝えた。
私はそこから抜け出したくて、梓さんが作ってくれたお昼の賄いパスタをもってバックヤードに逃げ込んだ。