第35章 とある日の降谷さん(風見さん視点)
降谷さんは天才だ。漫画のような人だ。完璧だ。
安室透のときはにこにこと人当たりのいい喫茶店の店員で、どこにもいそうな人畜無害の優男になりきっている。
どこにでもいそう。と言ったが、それはまた違って、料理、掃除、知識、要領…何をとっても右に出る人はいないだろう。
「風見。例の件どうなった。」
「はい、一人捜査員が中で調査中です。」
「…そうか。何か分かり次第すぐ僕に報告してくれ。」
「はい。」
本庁での久しぶりの仕事。
降谷さんの机に溜まった書類を降谷さんは他の人の5倍は早く目を通していっている。
小さな部屋には降谷さんが公安だと知っている数少ない人だけの机が並んでいる。
たったの5つ。自分は降谷さん来た時だけこの部屋に訪れている。
「アジア系のテロ組織の件はどうなった。」
「リーダーは降谷さんのお陰で逮捕できました。まだ他のメンバーは捜査中です。が、リーダーが捕まったので時間の問題かと思われます。」
「リーダーと少し話をしたい。」
「わかりました。調整しておきます。」
「頼んだ…、すまない。電話だ。」
くるっと振り返るとさっきとは打って変わって明るい声で電話にでた。
「はい。あ、梓さん。どうされました?……あれはバックヤードの冷蔵庫にしまいましたよ。右奥の方だったかな?…ありました?よかった。はい。じゃあ後で行きますね。ははっ!いいですよ。はい。それでは。」
…この切り替えの速さだ。
自分には絶対に無理だ。
しかし最近の降谷さんは少し変わった気がする。
潜入捜査中にも関わらず、スーツ姿のまま銀行強盗の制圧に行ったりーー…
以前の降谷さんならそんな事はしなかっただろう。
他の捜査員に任せるか、他の手を使ったはずだ。
年末年始の忙しい時期には、一心不乱に何徹もして仕事に集中し、夕方出ていったりーー…
黒の組織のバーボンの姿を、潜入先のポアロの店員に見られるという失態も無かったことにしている。
本当に気付かれていないのか心配ではないのだろうか。
まぁ、その店員にはホテルで恐らくハニートラップでもして対処しているあたり流石の降谷さんだ。