第3章 たらこ
「いやー、買いましたねー。」
「のりますか…?」
「大丈夫ですよ。夏目さんは乗ってて下さい。」
そう言われても、さきに乗れるはずがないので、重いものは安室さんに任せ、軽いものを後部座席に乗せていった。
二人で車に乗り込み、私は缶コーヒーを一本取り出した。
「はい、安室さん。ブラック…ですよね?」
「え?」
「会計終わった後に買ったんです。今日の運転手さんに。どうぞ。
あ、高級車で飲食はマズイですか!?」
「飲食は僕も車でいつもしてるので、気にしないでください。それより、ありがとうございます。」
「お休みの日にわざわざ車だしてもらったので、このくらいしか出来ないですけど…。」
にっこり笑ってコーヒーを受け取った安室さんは、ありがとうございます、帰りに頂きますね。と言って、ドリンクホルダーに缶コーヒーを置いた。
ポアロに着くまでの間、ついぞその缶コーヒーが開けられることはなかった。
帰りの車の中、のんびりした時間が流れる。
ふと安室さんの方を見ると、暑いのか袖をまくっている。
「あ、また。」
「何か?」
「また怪我してる。」
「え?…あぁ、全然気付きませんでした。いつだろう。袖をまくるときに傷口開いたんでしょうか。」
開いたんでしょうか。じゃない。
まったく。痛みに鈍感…いや、きっとしょっちゅう傷ばっかりで気にもしてられないのかもしれない。
ごそごそと鞄を漁って小さな絆創膏を取り出した。
「じっとしててください。ハンドルから手を離して。」
「…。」
大した傷じゃないけど、血が垂れそうだ。
ハンカチも取り出して先に軽く血を拭き取った。
「汚れちゃいますよ。」
「ハンカチは洗えばいいですけど、血が落ちると車汚れますよ。」
「すみません。」
「安室さんは謝ってばかりですね。」
「夏目さんには何度目でしょう。」
「…いつの傷ですか?昨日?」
「んー恐らくカサブタが取れちゃったせいだと思うので…傷自体は結構前でしょうか。」
「無茶ばかりですね。…はいっ。貼れました。」
「すみません。」
「また。」
「…ありがとうございます。」