第9章 活力の部屋、希望の人、
「すみません……
私が泣いたばっかりに
そんな話までさせてしまって……」
「気にすることではないよ。
私はもう立ち直ったと言っただろう?」
俯くエマを、エルヴィンは見つめる。
「私は世間の思う通り
元の冷酷かつ非情な指揮官に戻ったんだ。」
エルヴィンは悪戯っぽく笑った。
「……私にとっては、
温厚で有情溢れる優しいエルヴィンさんです。」
エルヴィンはエマからの言葉に
目を見張るが、
「君は対義語に詳しいね。」
と、嬉しそうに言った。
「注目する点は、そこですか?」
エマは困惑した表情を浮かべながらも、
小さく笑った。
「いや。
喜びを表現するのが苦手なだけだよ。」
エルヴィンはそう言うと、
エマを強く抱きしめる。
「他の誰に何と言われようが、
どう思われようが、
君がそう思っていてくれるのなら
私はそれだけで何度でも
奮い立つことができる。
私は君だけに優しく有れたら、
それでいいと思ってるんだよ。」
「……君が私のことを、
そう思っていてくれる限り、
私はいつまでも
冷酷で非情で惨忍で非道で……
それでも、人として居られるんだよ。」
「……すみません、
もう、泣かすのやめてくれますか?」
エマは涙を堪えきれず、
エルヴィンの胸に顔を埋めた。
「本当に君は、どこまでも
私の心に入り込めるんだな。」
「それはこっちのセリフです……」
エルヴィンはエマの髪を撫でながら、
優しく笑った。