第9章 活力の部屋、希望の人、
「……一年前、丁度腕を失くした頃だったな。
その頃、私は殆どの時間を
ここで過ごしていた。」
エマはエルヴィンの手元を見ながら、
静かに話を聞く。
「自分の士気を高めるために、
壁の外への希望をここで見出しながら
仕事をしていたんだ。
……そうでもしないと、今まで失ったものを
つい数えてしまうんだよ。」
エマは思わず
エルヴィンの手を握った。
エルヴィンはエマの手を握り返すと、
「だが、君がここに来てくれてから、
私はこの部屋に来ることが殆どなくなった。」
そう言ってエマに笑いかけた。
「君は、私にとっての活力であり、希望だ。」
「……だから、
君をここに連れてくることには
何の抵抗もなかったんだよ。」
エマは自分の頬に
また涙が伝うのを感じ、急いで手で拭う。
「君は相変わらず感受性が豊かだな。」
エルヴィンはそう言いながら、
エマの涙に触れた。
「私は、そんな大そうな
人間じゃないです……」
「その言葉は昨晩、
私が君に言った言葉じゃないか。」
エルヴィンはそう言って頬を緩めると、
エマの頭を撫でた。
「自分ではそう思わないだろうが、
私にとって君はそういう存在なんだ。」
エルヴィンの声は穏やかで、
緩やかにエマの心の隙間を埋めていく。
「だから私が君をここに連れてきた事を
そんなに気負う必要はない。
素直に楽しんでもらえたら、
と思っただけなんだ。」