第9章 活力の部屋、希望の人、
しばらくして、
エマの涙が少し収まってきた頃、
「……ありがとうございます。」
エマはゆっくり口を開く。
「ここはエルヴィンさんの大事な場所なのに。
私なんかを入れてくれて。」
エルヴィンはエマを抱きしめたまま、
「いいんだ。
君も本が好きだったからね。」
と、小さく笑う。
「でも、ここはエルヴィンさんにとって
唯一無二の大切な場所じゃないですか……」
エマはそう言って、
エルヴィンの服を強く握る。
「そんな大切な場所に、
私が入り込んでしまったら
エルヴィンさんが今まで大事にしてきた
自分の時間や、空間を
壊してしまう気がして……」
「君は人の心を、
すぐ深読みしてしまうんだな。」
エルヴィンはエマを少し離すと、
エマの涙を指で拭った。
「そうだな。
私の中でここは、壁の中ではないんだ。」
エルヴィンはそう言って立ち上がると、
一冊の画集を手に取る。
「調査兵団の団長ともあろう者が、
こんなものを大事にしていると知れたら
少々女々しいと思われてしまうかも知れない。」
エルヴィンは少し笑いながら、
手に取った画集を開く。
「どこの誰が描いたものかは知らないが
ここには壁の外のことが、
色々描かれているんだ。」
エマは画集を覗き込んだ。
「ここの本棚にある本は、
殆ど壁の外に関する本なんだよ。」
「壁の外に関する本が、
こんなにもあるんですか?」
エマは顔を上げて、周りを見渡した。
「こうして壁の外にある
膨大な可能性を考えていると、
調査への活力が増幅するんだよ。」