第36章 自分の意思
「少なくとも、
私は振り回されて嬉しかったが。」
エルヴィンはそっとエマの背中に触れる。
「君を諦めたくなかったから、
君が私の心を揺さぶる度、
私は心のどこかでホッとしていたんだ。
良かった、まだ君を愛してもいい
理由がある、と。」
エルヴィンのその言葉で、
また一つ、エルヴィンの胸の内を
知ることになった。
エマは動揺を隠すように、
少し背中を丸め、
「……すみません。」
と、呟くように言う。
「いいんだ。
私はもっと振り回して欲しいと
思っているくらいだからな。」
エマの背中をゆっくりなぞる
エルヴィンの手付きはいやらしく、
エマは思わず身体をビクつかせた。
「だから、ダメですからね。
あんまり私を誘惑するのは
止めてください……」
エマはエルヴィンの方を向き直ると、
困ったような表情でエルヴィンの手を掴んだ。
「エマ、怒っているのか?」
「……怒ってもいいんですか?」
エマがそう言うと、
エルヴィンは小さく笑い、
「ああ。
一度くらい君に怒られてみたいよ。」
と、エマの目を見つめる。
「………怒りませんよ。
自分で蒔いた種なのに。」
エマがため息を吐くと、
「それは私にも言えることだな。」
エルヴィンはそう言ってまた笑った。