第33章 心に触れるたび
「私が、エルヴィンさんを
放っておきたくないんです……」
エマの頬を涙が伝った。
「もう無理ですよ……
どっちか一人を選ぶなんて、
やっぱり私には無理だったんですよ……」
想いが言葉になって溢れ出て、止まらなくなる。
「エルヴィンさんの心に触れる度、
どうしても側に居たくなってしまうんです……
……この気持ちは、
エルヴィンさんに対する愛情ではないんですか?
もう私には、自分の気持ちを
判断することすら、」
「エマ。すまない。全部私のせいだ。」
エルヴィンは少し声を張って、
エマの言葉を遮った。
「私が君にしつこく付き纏っているから
君がこうして迷わなくてはいけなくなる。」
エルヴィンの声は、もう震えてはいなかった。
「……私が潔く、君を諦めるべきなんだ。」
エマは何も言えず、
エルヴィンの胸に顔を埋めた。
「頭では分かってるんだよ……
何回も、何十回も、
君を諦めようと試みているんだ。
……それでも君の温かい心に触れる度、
諦めることが出来ないことに気付くんだ。
いつもその繰り返しなんだよ……」
感情を抑えきれなくなったエルヴィンの声は、
いつもの声より、一段と深く心に響く。