第33章 心に触れるたび
「大丈夫だ。
私はそんな卑怯な真似をするつもりはない。」
なるべく平然を装おうと
冷静な声で話すエルヴィンに、
「……卑怯とは思わないですが、
理由を聞いて、
心が揺らがない自信はないです。」
と、エマは正直に言う。
「そのくらい、
さっきのエルヴィンさんの話は
容易に思い描くことが出来ました……」
エルヴィンは小さくため息を吐くと、
「……そうか。
そう言ってもらえて嬉しいよ。」
そう言って、立ち上がった。
「エマ。少し部屋で頭を冷やしてくる。
君にこんな姿は、もう見せたくないんだ。」
エルヴィンの穏やかな声は、
エマを安心させるために
作られた声に聞こえる。
エマは思わずエルヴィンの右の袖を掴むと、
その反動でエルヴィンは一瞬
エマの方を向いた。
露草色の瞳は少し充血していて、
それを隠すかのように、
エルヴィンは目を瞑る。
エマは立ち上がると、
エルヴィンを強く抱きしめた。