第30章 愛されなくてもいい
エルヴィンは拳を強く握り、
感情を押し殺すように立ち上がろうとした、
その時。
「……エルヴィンさん?」
エマは微睡んだ目で、
エルヴィンを見た。
「……いつ起きたんですか?」
彼女のその無防備な姿に、
何度心を揺さ振られたことだろう。
振り向きたくない。
今振り向いたら、
決心したことがまた鈍る。
「怖い夢でも見たんですか……?」
私の気も知らず、
彼女は心底心配そうな声を発し、
握り締めた私の手に触れる。
「いや。大丈夫だ。」
なるべく平静を保ち、彼女に笑って見せた。
彼女に触れられた部分だけ、
際立って熱くなる。気持ちが昂る。
……そしてまた、振出しに戻る。
諦めようと決心しても、
すぐにこんな些細な彼女の言動に揺り動かされ、
この気持ちを制御することが不可能になる。
しかも一度や二度ではない。
こんなことは幾度となくあった。
自分の意志の弱さを痛感する。
調査兵団の団長がこんなことでは、
聞いて呆れる……