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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第13章 漆月☩しづき☩の惑い【🗝 ⇆ 主 *】


「ナッ……んんっ」

近づく瞳。唇にふれる温もりに、彼に口付けられていることに気づいた。



しゅる……と夜着のリボンが解かれ、急いた様子でひらかれる。

その仕草はあまりに性急で、常の冷静さを消し去っていた。



「きゃっ……!」

慌てて隠そうとした掌は、片手で封じられる。

どんなに抗っても、その力が抜け落ちることはなかった。



「こんなに美しいのに、隠さなくてもいいだろう」

制止の声も聞こえていない様子で、熱い視線が肌をたどる。



胸を包むと、びく、とちいさく震えた。

怯える瞳に気づき、額に触れるだけのキスをひとつ。



「優しくするから、………怖がらないで」

唇を触れあわせる。

角度を変えて、何度も、………何度も。



捏ねると、ちいさく身体が跳ねた。
ん、ん、と噛みしめられた唇から、くぐもった艶音が零れる。



「噛んだら駄目だ」

冷たい指先が、彼女の下唇をなぞる。

それでもふるふると首を振る彼女に、彼は呟いた。



「俺の名を……呼んでくれないのか?」

寂しそうな顔をしてみせれば、その瞳がゆれるのがわかった。

おずおずといった様子で、かみしめられていた唇が解ける。



「ナッ……ク」

………嗚呼、なんて素直なんだろう。舌足らずなその声が、たまらなく愛らしい。



「もっと……もっと呼んでくれ。あんたの声で、俺だけを………!」



「ひ、………んぅっ」

胸元に吸いつかれ、紅い花びらが散る。

ゆらゆらと揺れる瞳は、蝋燭のほのな灯りの下で、殊更に儚く煌めいた。
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