• テキストサイズ

訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第6章 仮面の下で【🫖 ⇋ 主 ← 🦋‪ & 🍷 ✉】


「べり、あん……?」
彼の手をつかんだのは彼だった。



「手をお引きください」

常ならば穏やかなひかりをはらんでいた瞳は、凍てつくような冷たさを放っていた。



「な……君は、誰に向かって物を言っているのだ」

振り払おうとするれけれど、篭められた力がそれを許さない。



「えぇ、勿論わかっていますよ。

先ほどまでこの御方を散々侮辱していたのですから、当然の結果です」

にこりと微笑むけれど、その眼は笑っていない。

ぎり、ぎり、と指がくい込んだ手首が軋んだ音を立てる。



「ベリアン、私なら大丈夫だから……!」

そんなふたりの間に割って入り、その腕に手をかける。

ゆっくりと力を抜け落とすと、解放された手をさするその男。



「ふん………便利屋風情が」
吐き捨てるような台詞を吐くと、屋敷のなかへと消えていく。



「っ……ベリ、」
そっと包み込んでいた手を引き、彼女を抱きしめた。



驚いた彼女が胸を押し返したけれど、ベリアンは彼女の背にかけた手を離さなかった。



「御無事で……本当に何よりです」
包み込んでくる彼の身体は、わずかに震えていた。



おずおずと、広い背を抱きしめ返す。



「!」
吐息を封じた彼に微笑んで、彼女は呟いた。



「ここにいるよ……ずっと」
ぎゅ、と背に回した腕に力を篭める。



「私はいなくなったりなんてしない。………約束するよ」

そっと仮面に指をかけ、外させる。その影で、紅玉の瞳が愛おしそうに解けた。



「ありがございます、主様。そのお言葉だけで充分です」

彼女の隣り。そこにいることを許される事実に、心から幸福を感じた。



(ずっと……貴女とともに、)

密やかな願いは、舞い散る花びらに包まれていく。

愛しいひとの温もりを感じて、彼は微笑んだ。
/ 168ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp