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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第5章 あなたと紡いだ時間たち【All Characters ✉】


「……よくお似合いですよ」

フルーレが微笑みながら、リボンを整えてくれる。



「ありがとう。少し恥ずかしいけど」

彼女が纏っているのは、紅と茉白を基調としたドレス。



首筋からデコルテにかけては一見素肌のようだが、

実際は霞のようなリバーレースに覆われている。



胸元は大きく開いており、精緻な蔓薔薇の刺繍が施され。



スカート部分はフィッシュテール状になっており、陰影の美しいドレープがひらひらと舞う。



髪にはドレスの共布で作られたリボンが編み込まれ、

細心の注意を払って散らされた後れ毛は、念入りにカールされていた。



「主様、失礼いたします」
控えめな叩扉のあと、姿をみせたのは。



「ベリアン……!」
胸のなかへ飛び込むと、背に腕がかけられた。



「あらあら……、今日の主様は甘えたさんですね」

微苦笑を浮かべながらも、しっかりと包み込んでくれる。



「フルーレくん、少々席を外していただけますか」

さりげなくヴァリスの手を包むと、彼の瞳が揺れた。



「え、でも………、」



「本当に少しの間ですから、」

にこりと微笑んで見せると。



「……わかりました。——では、主様……また後で」

丁寧に一礼したのち、部屋を出ていく。



「ベリアン……?」

瑞々しい唇から、己の名がこぼれ落ちる。心配そうにゆれる瞳を見返した。



「少しの間だけ、貴女を独占させてください」

抱きしめた腕から温もりが伝う。

わずかに震えているその身から、彼の思考を悟った。



その頬を包むと。



「っ………。」
そっと、口付けた。わずかに瞠目した彼に微笑みかける。



「大丈夫だよ、私はずっといるから」

広い背に腕をかける。



「貴方が時間を忘れるくらい、ずっとここにいるの。

………だから、不安にならないで」

微笑むそのおもてから、零れそうな優しさ。たまらなくなって、その手をとった。



すっ……と優雅な所作で跪く。



「この命尽きるまで、このベリアンは貴女とともに」

指輪に唇を押し当てた。


「ベリアン……。」

その笑顔が己に向けられるだけで、幸せを噛みしめた。



「ヴァリス様……。」

微笑んで片手を差し出す。




「えぇ……いこう」
そっと、掌を重ねた。
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