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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第22章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅱ 【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


「ううん、………何も思い出せないの」

その言葉に顔を見合わせる。

ふら、とよろめいた身体を支えたのはルカスだった。



「大分混乱しておいでのようですね、………よっと、」

ルカスの指が膝裏にふれ、抱き上げられる。



「る、ルカス………ッ?」

そのまま寝台に下ろされ彼のおもてをみつめる。

何かを言いたげな眼差しに、その薄い唇に弧を描いた。



「しばらくお休みになられてください。 ……そのままでは思い出せないのですよね?」



「……でも」

紡ぎかけた唇に指をあてる。にっこりと微笑みながらさらに声を重ねた。



「これは、主様専属のお医者さんとしての勧奨です」

じっとその瞳をみつめる。その奥に隠した、真意を探るように。



ややあって、根負けした彼女は頷いた。



「……わかった」

とじた瞼に手袋の感触を感じる。

さらさらとした前髪をかき分け、額に柔らかく温かいものが押し当てられた。



「おやすみなさいませ、主様」

その声をとらえた後、その身が濃霧に沈み込んでいった。
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