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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第22章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅱ 【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


「!」

ヴァリスは、はっと吐息を封じた。

薙ぎ払われ散り散りに漂っていた靄たちが、再び密集して今度は別のものを形づくる。



そして現れたのは黒曜の短剣だった。

無数の刃が、ボスキの背へと狙いを定め———。



「(ボスキ、後ろ……!)」

彼女はそう叫びたかったが、ひらいた唇からは何の音も発せられなかった。



「? 主様?」

ぱく、ぱく、と声なき言葉で伝えようとしても、彼は気づかない。




その間にも刃は彼の背へと飛んできて———。




「駄目……!」

気づけば彼を突き飛ばしていた。

標的を失った短剣たちが、その身を貫こうとした瞬間。



「主様!」

ザン、と踊るように舞う長髪。

その腕のなかへ肩を抱き寄せながら、手にした大鎌にこびり付くような靄を払った。



「ルカス……!」

その名を呼べば、ほんの少しだけ柔らかくなった眼差しを注がれる。

けれどそれは一瞬のことで、すぐに厳しい視線で前方を睨んだ。



「ボスキくん、主様を私達の後ろへ。

ベリアンがすぐにカレッセン公をお連れするから!」



「えぇ、わかっています……!」

ヴァリスを守るように二つの背で囲い込みながら、その手のなかの刃を振るう。



くす、くす、………くす、くす。

ひそ、ひそ、………ひそ、ひそ。




姿形のない靄たちを相手に踊るその切っ先を前に、いくつもの少女のようは嗤い声が響き渡る。




『まぁ、とんだ愚か者だわ』



『本当……! たかだか一人の女に……!』



『そこまでムキになって私達を倒そうとするなんて……!』

耳につく嗤い声。

澄んだ音域でありながら、なぜだか酷く醜悪に感じた。




後方ではヴァリスが耳を塞いで震えている。

その姿を視界の裾にとらえながら、みずからの内で鮮血が駆け巡った。
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