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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第22章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅱ 【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


『捨てられた子、………捨てられた娘……!』


『憐れで、滑稽な操り子………。』


『ヴァリス、………ヴァリス……。運命の娘……!』



「っ………!」

まことの名前を囁かれ、その咽喉を凍らせる。

自分の身体を抱きしめるように指をかけ、ただ声が止むことを祈る。



けれどささやかな願いは、現れた影に潰えた。



周囲を漂っていた靄のような気配が、だんだんとその色を濃くする。

磁石と磁石が重ねあわさるように、靄がだんだんと形づくられていく。



そして現れたのは、顔のない無数の「手」だった。

絶えず笑い声を響かせながら、一斉に彼女へと伸ばされ………。



(厭ああぁっ……!)

ヴァリスは悲鳴を上げたかったが、干上がった咽喉からは何の音も発せられなかった。



「………、…………!」

何度唇をひらいても同じである。

まるで邪な魔法にかけられているかのように、声を奪われていた。


その間にも「手」は彼女のほうへと伸びていき、胸のなかを塗りつぶす恐怖。



(皆……!)

心で彼らを呼んだ、その刹那だった。



「主様!」

ザシュ!と青き刃で「手」を薙ぎ払う。

彼女を背に庇いながら、その刃を振るった。



「!」

濡れた瞳に映ったのは旎く紺碧。

ぺたん、と力の抜け落ちたその身を支えたのは、

細身でありながらしっかりと筋肉のついた腕だった。



「ボ……スキ………。」

その眦に溜まっていた雫を指で掬い上げ、頬に手が添えられる。




「何もされてねえよな?」

こっくりすると、その指が伸びてくる。



気づいた時には彼に抱きしめられていた。
呼吸さえ封じ込めるように、強くつよく包み込まれる。
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