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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第20章 月嗤歌 ED Side A - II【別邸組 *♟】


(どうして、………そんなに怒っているの……?)

触れる指は優しく、物足りなささえ感じれる程繊細な手付きなのに、

纏う空気は仄かな棘を宿していた。



深くふかく唇を喰まれ、息苦しさにハナマルの胸に指を打ち付けど、重ね合わせた唇は離れない。



「んっ………ふぁ、」

滑り込んできた熱い舌先が、ヴァリスで暴れ回る。

くぐもった艶音を吸い取られながら、伸びてきた指が胸をつかむ。



「っ………あぅ、」

力任せに捏ねられ背筋がしなる。

びくびくと身体を震わせ、その瞳に涙の膜の纏う頃、漸く唇が解かれた。



「あんたはずるいな」

つかんだ手首を引かれ、その所作とともにテディの象徴が抜け出ていく。

訳の分からずそのおもてを見上げると、耳朶に唇が近づき囁くように告げる。



「俺ばかりがどんどん惚れていくのに、あんたは誰でも平等に大切にする。

あんたが他の奴らに笑いかける度に、俺がどんな思いでいたか知ってもらうぞ」

指を囚われ、シーツの上で包み込むように縫い留められる。

一杯いっぱいにみひらく瞳にくすりと笑みを零し、額に唇が落とされた。



「大丈夫だぞ〜、主様。優しくするから、………あんたが怖がることはしないって」

いつもの少年のように屈託のない笑みを浮かべて見せる。

密やかな笑みを描く唇に、ほっとしたようにその瞳を解いた。



「やっと俺をみてくれたな」

そのおもてあまりに優しくて、彼の指を握り返す。

ハナマルの荒れて古傷と剣だこだらけの掌を、労るように撫でていると、仄かにその唇がひらく。



「……なんか、あんたに試されている気分だ」

ぽつりと独りごつように呟いた声は彼女の耳に届かなくて、そのおもてを見上げる。




「………?」

問うようにその瞳をのぞき込んでいると、

握り合っていた右手の指が解かれ、彼女の顔をみずからの胸板に埋められさせる。



「今はこっち見ないでくれ」

ぐっと押し付けるように引き寄せながら、その指がヴァリスの髪を櫛る。

ドクドクと常より速い生者の証を感じていると、耳朶をかすめた声。
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