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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


「はい。スロー、スロー、クイック、………クイック」

ぱん、ぱん、とラトが手を打ち鳴らすのに合わせて、ワルツのステップを踏む。

抱き寄せた彼女の身は華奢で、その腕は折れそうに儚くて。



「ストップです。

ハウレスさん、またステップがぎこちなくなっていますよ」

その指摘に苦笑を返す。



「ふむ……中々難しいんだな」



「主様、お疲れではありませんか?」
そう問いかけると。



「ううん、大丈夫……。任務のためだもん」

微笑むおもてに鼓動が跳ねる。

染まった頬を見られたくなくて、さっと視線を解いた。



「主様も少し俯きすぎです。
もっとお顔を上げて、視線を合わせたままでいてください」



『皆さん、一度休憩しましょう』。

その言葉に、フルーレのピアノが留まる。そっと鍵盤から指先を離し、微笑んだ。



「主様、喉が乾いてはいませんか? 俺……良ければ紅茶を準備いたしますよ!」



「ありがとう。じゃあ……お願いできる?」



「わかりました! 少々をお待ちください」
茶葉をはかる横で、彼女の瞳がわずかに翳る。



(主様……?)

心配になって声をかけようとしたときには、常の明るさを宿す瞳に戻っていた。



「とっておきのコツがあるんですが……聞きたいですか?」

唇に人差し指を当てると、薄い唇が弧を描く。



「勿体ぶるな、ラト」
すこしばかり咎めるように呟くと、彼の瞳が愉快そうなひかりを宿す。



「くふふ……怖いですね。では教えてあげましょう。

ワルツを踊っている間は、パートナーに恋するような気持ちで。

そうすれば、自然と優雅に踊れますよ」

そう告げ、妖しく微笑んだ。
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