第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
(どうしよう……この勝負を受けるべき?
ルカスとボスキはお酒に強かった筈だけれど、
ベリアンとナックはあまり強くないというのはもう知っているし………。
それにこれ以上お酒が入ってしまったら、
ふとした瞬間に私達が偽物だと気取られてしまうかもしれないよね)
「っ……カレッセン公、」
紡ぎかけたヴァリスの手をそっと包み、ルカスが唇をひらく。
「その勝負……お受けいたしましょう」
「ルシウス殿!」
思わず咎めるように名を呼ぶと、彼はウインクして見せた。
『ここはルカスさんにお任せを』
ナックも彼女も守るようにルカスの隣りに立つ。
祈りを込めてベリアンをみつめるも、彼女にしかわからぬ程度の微笑を浮かべるだけで………。
「!」
する……と深青の手袋を嵌めた手が、なだめるように髪を撫でてくる。
はっとしてボスキを振り仰ぐと、
常ならば切り裂くようなひかりを放つ双眸が、すこしばかり柔らかく和んでいた。
『大丈夫だから』
声なき言葉でそう告げると、カレッセンは微笑んだ。
「決まりですね。———エーファン、」
「はい、旦那様」
家令を呼びつけると、彼は唇に笑みをのせたまま命じる。
「地下のワインセラーからこの席に、特に上等な酒を運ばせなさない」
ゴブレットを掲げ、カレッセン公は楽しげに告げる。
「私のコレクションを、
大切なお客人に披露することになるとはなんと喜ばしいことなのだろう」
歌うようにつぶやく主人を家令は窘める。
「旦那様、ほどほどになさりませ。
今宵はもう既にたくさんお召になられたでしょう」
すこしばかり棘を滲ませた口調に、彼は変わらぬ口調で告げた。
「興を削ぐようなことを言うものではないよ、エーファン。
これは私と皆様方の真剣勝負なのだから。
———さぁ、準備はよいですか? 皆様の健闘と幸運を祈り、乾杯といきましょう」
なみなみと注がれたワインの水面に、どこか不安そうな自分のおもてが映っている。