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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】


「主様……。」

その声で紡ぐ。ヴァリスは努力して笑みを作った。



「わ、私は大丈夫だから。その人を傷つけないで」



「!?」

その言葉にレビが瞠目する。そして、やや遅れて唇をひらいた。



「あんた、俺に何をされようとしていたのかわかって———ぐっ」

つかつかと近づいてきたハナマルが、その襟元をつかんで壁に叩きつける。

ガン、としたたかに肩を打ち付けて顔をしかめると。



「主様に感謝しろよ」

床に引き倒すと、ダン、とその顔の前の床を踏みしめる。




「ルカス先生に引き渡してくる。………テディちゃん、あんたも来てくれ」

すばやく彼を拘束しながらテディを見やる。



「は、はい、ハナマルさん」

その瞳は彼女を案じる思いを映していたけれど、

彼の眼差しに宿る思考を読み取ったのか、神妙な顔付きで頷いた。



「………ユーハン、」

部屋を出る寸前に彼の名を呼ぶ。




「わかってると思うけど———、」

フェアリーストーンの瞳に宿っていた、霞のようなヴェールが消え去る。

様々な思考が混ざりあい混濁するような覆いが取り払われ、その唇をひらく。



「えぇ」

それだけを口にする彼にわずかに柳眉を寄せて、今度こそ出ていった。
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