第1章 囚われの姫
そこでふと閉まっている扉を見ると僅かに開いている
外に見張りの気配もしない
恐る恐る扉に手をかけゆっくり引くとスッと開いた
「っ!!!」
今なら、屋敷の人間も来訪客に気を取られている
しかも、今の自分には足枷が付いていない
「………」
逃げるなら、今しか ない
そう思ったら弾けるように部屋から抜け出した
これが、仕組まれた罠だとも知らずに…
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どれぐらい走っただろうか
気がつけば、山の中を走り抜け、海岸が見える
そしてその海岸に見た事もない大きな船が何隻か止まっている
(これが、海軍の乗って来た船なのかしら…?)
ガサッ
不意に後ろから物音がしバッと後ろを振り返る
そこにいたのは、白い服に身を包んだ大柄の男
見た事ない姿から海軍の人間なのだろうと理解するが、その雰囲気が独特だった
肌にピリピリと感じる嫌な感じ
本能で“逃げろ”と警鐘を鳴らすが、あやめの足はガクガクと震え動けずにいた
「ふふふ…やっと手に入れられるぞ、癒しの力を持つ姫よ」
「っ!!」
「あぁ、自ら罠にかかってくれてご苦労だったな、お陰で思ったより早く行動できたよ」
「わ、罠って……」
震える声で問うと大男はそのまま大声で笑い出した
「アーッハハハハ!!これは傑作だな!小娘よ、本当に“偶然”出れたと思ったか?」
扉に鍵が掛かっていなかった事も、見張りが一人もいなかった事も、追っ手が誰もこない事も…
全部、この男に仕組まれた罠だったのだ
屋敷から、父親から逃げられれば、自分は自由になれるのだという淡い期待が目の前の男によって消されていく
その瞬間、抵抗すらしようと思わず自ら船へと足を運んだ
「ふふふ…物分かりの良い娘だ。なぁに、悪いようにはしないさ」
(今は、まだ…な)
こうして、一人の少女は海軍によって海へと連れて行かれた
これが、最初の歯車となるのだった