第4章 傷とキズを舐め合うように
欠伸をしながら伸びをして、首を回す。
「……ちゃんに、会いたいな……」
そう思うと、じっとしていられなくて、気づいたらちゃんのマンションの前にいた。
「俺はストーカーか……」
まだ夜が明けたばかりだから、人はほとんどいないから静かだ。
苦笑しながら、マンションから少し離れた道路脇の柵に凭れ掛かって真正面からマンションを見上げる。
姿が見えた訳じゃないのに、何故か心が安らぐ気がした。
少しボーッとしてから、立ち上がった。
「帰って寝るか……」
心の中でちゃんにおやすみと呟いて、歩き出す。
「一二三、さんっ!」
まさか、こんな事あるのか。可愛くて愛らしい声が俺を呼ぶ。
声がした方を見ると、部屋着であろうラフな格好のちゃんがゴミを片手にこちらを見ていた。
ヤバい、ちょっと大きめサイズの部屋着とか、可愛すぎる。
可愛さに身悶えている俺の元に、パタパタとこれまた可愛い足音をさせながら走って来てくれるちゃんが、愛おしくて抱きしめたい衝動に駆られる。
「どうして、ここに?」
「あっと……仕事終わって……その、そうっ、たまたま通りかかったっつーかっ!」
濁りのない目が俺を見上げる。
駄目だ。ちゃんには、どんな嘘も吐きたくない。
「ごめん、嘘。会えない時間、ずっと君の事考えてて、仕事終わって気づいたらここに来てた」
大きな瞳が揺れる。
「会いたかったんだ、ちゃんに……」
苦笑して「気持ち悪いよね、こんなとこまで来るとか」と付け加えると、胸の前で握られていたちゃんの手が、控え目に伸ばされる。
俺の頬に小さな手がゆっくり触れて包む。
「気持ち悪くなんてないです。大丈夫ですか? 疲れた顔してる……」
「ちゃんの顔見たら、疲れなんて一気に吹っ飛んじった、へへへ……」
目の下当たりを指が撫でて、上からちゃんの手を握る。
「あんまり近寄ったら、俺今日酒とか香水とかのせいで多分臭いよ?」
「確かに匂いはしますけど、大丈夫です。疲れてるのにわざわざ来てくれたんですか? 連絡くれたらよかったのに。私が出てこない確率の方が高いでしょ」