第4章 傷とキズを舐め合うように
このまま、恋人になれなくて、万が一ちゃんに彼氏が出来てしまったら、俺はちゃんの幸せを受け入れられるだろうか。
出来る気がしない。
独歩の話では、ちゃんは気づいてないけどモテるらしいから、狙ってる同僚もいるみたいだし。
これは、危機だ。
もっと仲良くならないと。
もっと、男として意識してもらわなきゃ。
その日から、出来る限りちゃんに会いに行った。色んな場所に行って、色んな話をした。
ちゃんも段々笑ってくれる事が増えて、凄く楽しくて幸せだった。
やっぱりちゃんは、手離したくない。
そんな中、ここ数日はちゃんに会いに行けなそうだ。
何故か立て続けに同伴やらアフターやら、店のトラブルにとやたら忙しくて、仕事に精を出していた。
ちゃんに会いたくてたまらない。禁断症状が出そうだ。
今日は同伴で、お客様と食事をした後、店までを歩いていた。
「やっと一二三を独り占め出来たー。ここ最近ずっと一二三忙しいんだもーん、寂しかったぁー」
甘えた声で腕に絡みつく常連客に、いつも通りにホストの一二三で対応する。
「すみません、成美さん。トラブルとか色々忙しくて、僕も貴女に会えなくて、寂しかったよ」
そう言って微笑むと、成美さんは嬉しそうに更に腕に絡む力を強める。
彼女の話を聞きながら、歩き慣れた道を進み、店に近づいて来た時だった。
遠くの方だけど、絶対間違えるわけがない。
ちゃんだ。
目が合った彼女は、驚いた顔をした後、少し眉を顰めて軽く会釈をして背を向けた。
ただ、俺にはそれを追い掛ける事は出来なかった。
「一二三ー? ねぇ、聞いてるー?」
「あ、あぁ、聞いてるよ」
歯痒くて、その日の仕事は珍しくあまり身が入らなかった。
仕事が終わったのは、アフターが終わった朝方だった。
久しぶりにハードな日々が重なって、ため息が大きくなる。
「こうやってると、毎日残業ばっかのちゃんどぽはすげぇな」
疲れきった顔の幼なじみを思いだして、少し笑う。
毎日こんなんじゃ、俺ならやってけない。本当に尊敬する。