第4章 傷とキズを舐め合うように
手の平に口付けて、笑う。
「いいんだ。もちろん会える方が嬉しいけど、君がここにいるってだけでも、俺は……」
まっすぐ見上げる目がまた揺れて、頬が赤く色づいた。
「そうだ、昨日ごめんね、声掛けられなくて……お客さんと一緒で。あの人は常連さんで……」
「分かってます……お仕事の邪魔はしたくないから……大丈夫、です」
ちゃんは、少し目を逸らして苦笑した。
「いい気は、しないよね……こんな仕事してたら、どうしたって女性と関わるわけだし……そんな仕事してる男、信用出来ないのは、俺も分かるし……」
「確かに、ホストっていいイメージないです。けど、一二三さんは……信用してますよ」
彼女の手を握っていた俺の手を、もう片方の手を使って握り締める。
「女の人と一緒にいるのを見るのはいい気分ではないです。けど、一二三さんが誇りを持ってやっている仕事を否定するつもりはありません。それに一二三さん、ホストやってても誠実だし、何より……私の事凄く好きでしょ?」
照れたように笑う笑顔に、たまらなくなる。
「うんっ! めっちゃくちゃ好き、すっげぇ好きだっ!」
「……私も、好きです……」
「うん、ありがっ……へ?」
今、何を言われたんだろう。思考が停止する。
「一二三さんに会えなくなって、何か、私、凄く寂しくて、会いたいなって……。昨日会ったのも、実はお店の近くにいたら、会えるかと思って……」
耳を疑うとはこういうのを言うんだろう。
ずっと欲しかったちゃんが、俺を好きだと、会いたかったと言っている。
こんな幸せな事、あっていいんだろうか。
言葉にならなくて、顔が熱くて、頭がパニックを起こす。
「あの……一二三、さん?」
「あ、ちょ、ちょっと、今、頭、働かない……ごめん……ちょっと待って……」
空いている方の手で口元を押さえる。そうでもしないと、ニヤけて変な顔になるから。
ちゃんは黙って俺を見上げている。
「じゃ、そのまま少し屈んで下さい」
「へ?」
握られていた手が離れ、口元にあった手をどけられる。
ちゃんの顔が近づいてきて、可愛いなぁと思った瞬間、唇に柔らかい感触。
ちゃんにキスをされているんだと気づいた。