第3章 君が欲しくて
隠している場合でもないし、今更何の恥もない。
「ちゃん、顔、上げて?」
ゆっくりこっちを見たちゃんの瞳が、不安に揺れる。
「突然キスなんてして、ごめんね。男にこんな事されるの、一番嫌なのに、本当に、ごめんなさい」
ちゃんの方に向いて、頭を下げた。
「べ、つに……。それよりっ! 私が聞いてるのはっ、何で……き……」
「好きだから」
ちゃんの大きな目が見開かれた。
「で、も……女嫌いって……」
「うん、ちゃん以外は今でも駄目だよ」
ちゃんの顔が見る見る赤くなっていくのが、暗くても街灯に薄ら照らされる。
「多分一目惚れからだと思うんだけど……って、これもあんまりイメージよくないか……ははは」
ちゃんのトラウマを、なかなかに網羅してるなと改めて思って苦笑する。
けれど、ちゃんは特に怯えるわけでも、嫌悪するわけでもなく、こちらを見ている。
頬は赤いままだ。可愛い。凄く、可愛い。
「会えればその日は嬉しくて一日テンション上がるし、会わない日は一日君の事考えるくらい会いたいし、独歩に懐く君を見ると独歩が羨ましくて、俺に甘えて欲しいって嫉妬するし」
言い出せばキリがない。
いつの間にか、俺の中でちゃんがいっぱいになっている。
「君がもし独歩を好きでも、君を好きでいてもいいですか?」
「へ? 私が……何で、独歩さんを?」
「え? だって、ちゃん独歩にベタベタじゃん」
まるで意外な事を言われたかのような顔をされ、笑ってしまう。
「ははは、アレで気づいてなかったの?」
「確かに独歩さんとはよく一緒にいるけど、でもそれは独歩さんが私の教育係だから、仕事の事で一緒にいる事が多いだけですし、独歩さんは変な目で見ないし、触ってこないし、安全、だし……」
安全か。確かに独歩は女の子の嫌がるような事は、絶対しないだろうな。
「じゃ、尚更俺は駄目だね。安全じゃないから」
彼女といるなら、安全でいなきゃいけないけど、多分それは無理だから。
「……い、伊弉冉さんは……安全、とは、言えないかも、しれないけど……でも優しい、です」
そう言ってまた下を向く。