第30章 妻の新たな嗜好**
side.五条悟
僕には最近気に入らない事がある。
それは…
「名前ー」
「うん?」
「名前ってばー」
「なぁに?」
「名前ちゃーん」
「どうしたの?」
どんなに名前を呼んでも、
名前が僕の方を見ることはない。
最近の君は、
僕よりも古文書に夢中なんだ。
少し前に呪術師として目覚めた彼女は、
現在お勉強が楽しくてならないらしい。
休日は専ら僕の実家で本を漁り。
平日はそれを読みふけっている。
寝る時だって、前は二人でぎゅうぎゅう抱きしめ合ってたのにさ。
今じゃ僕の腕は単なる枕だよ?
僕に背を向けて、本にかじりつく名前。
どんなにきつく抱きしめても、
最近はまともに相手にすらして貰えない。
「あーあ。名前が構ってくれないから拗ねちゃおうかな?」
「はいはい」
“ちゅッ♡”
えっ…
呆然としてしまう。
何?
今のキス…
すっごい義務的なチュウをされた気がする。
して貰えないよりはいいけどさ、
されたらされたで、めちゃくちゃ悲しい。
「ねえねえ?悟さん。これなんて読むの?」
「………教えない…」
「えっ?」
「僕が満足するチュウしてくれるまで、名前には何も教えない」
名前に意地悪を言う。
年甲斐なんて関係ないね。
僕を蔑ろにする君が悪いんだ。