第22章 妻の過去
side.名前
それはある秋の夜。
悟さんと一緒に、湯船に浸かっていた時のことだった。
「ねえ?名前」
「うん?」
「名前にとって…僕ってどんな存在?」
「うーん…」
どんなって聞かれても…
「世界で一番…大好きな人?」
「そっか…」
「うん。どうしてそんなこと聞くの?」
私はいつも大好きって言ってるよね?
「んー…ちょっとね…」
悟さんは何かを考えているようだった。
「名前は僕を信頼してる?」
「えっ?」
何でそんな当たり前のことを聞くんだろう?
「悟さん…何か悩んでる?私は悟さんのこと信頼してるよ?」
「そっか…」
「うん」
「名前はさ。僕と結婚する前の話しないよね」
「あっ…」
そう言われてみれば。
一度も話したことはないかもしれない。
「そろそろ君の昔の話を聞いてもいいかな?って…」
澄んだ碧い瞳に見つめられて。
私の心臓がドクンっと高鳴る。
「言いたくなければ。無理に話さなくてもいいんだけど…気になってね」
確かに母が亡くなって一年経つのに。
一度もお墓参りにも行ってない。
今まで聞かないでいてくれたんだね。