第7章 同期達の証言
「…アイツさ、お前が現れると途端にソワソワしだしたりすんだよ。それまで冷静気取ってた奴がだぜ?それに、お前といつものように言い合った後も、お前が去ると突然、顔赤くして俯いたりしてさ、それがまた可愛いんだよなぁ。」
「っ!」
そう言って笑う村田の横で錆兎は、声が出そうになるのをグッと堪えて、口元を抑えた。
(なんだよ、それっ!……めちゃくちゃ可愛いくないか!?)
ニヤけそうになる顔を隠そうと俯くと、それに気づいた村田が、嬉しそうに顔を覗き込んだ。
「…伝説の錆兎様も、一般の男子と変わらない反応するんだな。俺は安心したよ。」
「う、うるさいっ!」
恥ずかしさに村田の頭を一発殴ると、村田は「いてっ!」と、錆兎を睨んだ。
痛みが引き始めると、村田は頭を擦りながら、錆兎を安心させるように言った。
「でもま、これでやっかみも件も、そろそろ落ち着くと思うぜ?」
「ん?」
突然告げられた朗報とも言える発言に、錆兎が問いかけるように顔を傾けた。
「だってさ。最近お前の、音羽への積極的な態度を見てりゃ、嫉妬に嫌がらせしてたやつも流石に諦めるだろ?」
「なんでだ?反対に悪化したんじゃないのか?」
義勇の口ぶりだとそんな感じだった。だが村田は、錆兎の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「くっつく前ならまだしも、今は『水柱様の女』なんだぜ?おっかなくて、嫌味なんか言えるわけねーだろ?」
「だったら、やっかみの件は…、」
錆兎の言葉に、村田が頷く。
「かなり落ち着いてきたんじゃないか?現に涙を呑んだやつ、何人も見たしな。」
(…じゃあ、俺のしたことは結果的には、正解だったのか?)
義勇と違い、交友関係に広い村田の言葉の方が信憑性がある。そう思い、安堵に胸をなでおろすが、そんな錆兎の頭には新たな疑問が湧き上がった。
しかし、それが本当だとしたら、音羽はなぜ、自分から逃げているんだろうか?
このままでは、埒が明かない。やはり本人に直接問い質すしかない。
錆兎は溜息と共に空を見上げると、この空の下、何処かにいるであろう愛しい者の姿に思いを馳せ、小さく呟いた。
「音羽、お前今…何処にいるんだよ。」
ー 同期の証言 完