第5章 燃ゆる想ひを※
どれくらい水の中にいただろうか。
段々と水の力がなくなり、水面に浮いた錆兎たちの身体は、ゆっくりと下流へと流れ始めた。
暫くすると浅瀬に辿り着き、錆兎は音羽を抱えたまま立ち上がると、岸へと上がった。
そのまま岩場に音羽を寝かせ、自分はその隣に力尽きたように座り込む。
「はぁ…はぁ…。なんとか…生きてたな。」
そう言って、苦笑いを浮かべる錆兎の姿を横目で見ながら、音羽は荒くなった息を整えると、呆れたように錆兎を睨みつけた。
「……アンタ、馬鹿なの?将来有望な、若い隊士を助けるならまだしも、同期の…目も出ないような一般隊士を助けるために、命を掛けるなんて。」
「俺は、自分の責務を果たしただけだ。」
「柱は貴重なのよ?誰もがなれるわけじゃない!なのに、アンタが死んだら…それこそっ、」
「どんな理由があっても、目の前に助けられる命があるなら、俺は見捨てることはしない。それはお前だって、同じだろ?」
そう言われて、音羽は黙り込んだ。救えない命をたくさん見てきてる。救えるなら、自分も最後まで諦めない。
音羽が黙っていると、錆兎がにこやかに笑いながら言った。
「今は二人で助かったんだから、いいだろ?……ほら、立てるか?」
錆兎が立ち上がり、音羽に向かって手を伸ばした。
音羽はその手を掴み、ゆっくりと身体を起こすが、立ち上がったところでフラつき、錆兎の腕に寄りかかった。
滝に落ちた恐怖が、思っていたよりも腰に来ていたようで、少し足が震えていた。
「なんだ、立てないのか?なら、小屋まで、お姫様抱っこでもしてやろうか?」
そう言って錆兎が茶化すと、音羽は怒った顔で、錆兎を軽く突き飛ばし、フラフラと自分の力で歩き始めた。
しかし、ちょっと歩くと、立ち止まり、背を向けながら小さく呟いた。
「……まだ、言ってなかったけど…、助けてくれて、ありがとう。」
その言葉に、錆兎の顔が嬉しそうに綻んだ。