第4章 二人きりの任務
「音羽、ごめんな。」
錆兎は向かってきた音羽の攻撃を避けると、その首に手刀を入れた。受けた音羽はその場に崩れ落ち、気を失う。
恐らく、意識をなくしたとしても、操ることは出来るだろう。だが、錆兎の目的は他にあった。崩れ落ちた音羽の身体に手をのばすと、突然、音羽の身体が持ち上がった。
「くそっ!」
音羽の身体は、何かに引っ張られるように、崖の淵まで連れて行かれた。
「……残念だったな。気を失わせても、操れるんだよ。」
いつの間にか、崖の手前の岩場に一匹の鬼が座っていた。
こいつがここの親玉。そのきらりと光った目に、数字が見える。錆兎はその鬼を、強く睨みつけた。
「だろうな。……でも気を失わせたのは、止めるためじゃない。そいつに俺が死ぬところを、見せたくないからだ。」
そう言って錆兎は、音羽の姿を優しい顔を見つめた。その姿に、何かを察した鬼がニヤッと微笑んだ。
「随分と覚悟がいいんだな。もしかして、この女に惚れてるのか?」
錆兎は静かに鬼を睨みつけながら、はっきりとした声で答えた。
「…そうだ。」
「あははっ!…確かに、なかなかいい女だからな?」
鬼は音羽に近づくと、後ろから強引に抱きしめ、その身体を確認するように、手を滑らせた。
その行動に、錆兎の頭に血が登る。
「そいつに触るなっ!」
その凄みに、一瞬鬼の顔が怯む。しかし、何もして来ないのがわかると、安心して言葉を続けた。
「そんなに凄んでも、意味はないぞ?こいつが俺の手の中にいる限り、お前は何も出来ないんだろ?さぁ、この女を殺されたくなかったら、刀をこちらに寄こせ。」
錆兎は鬼を睨みつけながら、刀を音羽の足元へと放った。鬼がその刀を音羽に拾わせる。
「クククッ、素直だな。本当に好きなんだな。なら、惚れた女の手で、地獄に送ってやるよっ!!」
鬼が腕を上げると、血鬼術に操られた音羽が刀を構える。
錆兎の目がその動向を、ただ静かに見つめたその瞬間、音羽の刀を握った手が、ピクッと動いた。
「……地獄に落ちるのはアンタよっ!」