第4章 二人きりの任務
「はぁ…、アンタと二人での任務なんて…最悪。」
錆兎に出会った第一声に、音羽はそう呟いた。
爽やかな青葉の匂いが、風に乗って香る春の日。本部からの通達で任務地に赴いた錆兎は、そこで音羽に会った。
錆兎が決意をしてから、初めての合同任務だった。次に会った時こそは、音羽の心に寄り添って……、と意気込んだものの第一声が、先程の言葉だった。
対して、呟かれた方の錆兎は、自分の顔が怒りで引きつっていくのを感じ、慌てて心で念じた。
(怒らない…怒らない…。)
「…そ、そうか?俺は嬉しいけどな。」
言った本人でも、怪しむくらいの棒読みで答えた錆兎を、音羽は疑わしい目で見た。
「何、頭でもおかしくなったの?」
ピキッ!
頭の中で何かがキレる音がした。今度こそ、怒りで顔が完全に引きつる。
「お前なぁっ、」
言い返そうと口を開いた錆兎の横から、一人の男が声を掛けづらそうに話しかけてきた。
「…あの、鬼刈り様。依頼の件なんですが…、」
「あ、すいません。」
錆兎が我に返り謝ると、男に依頼内容について確認をした。
今回の錆兎達の任務は、目の前に広がる山に巣食う、鬼の退治。
先程話しかけてきた男が、この山の持ち主で今回の依頼人である。
この山に異変が起こるようになったのは二ヵ月ほど前。山の管理を任せていた夫婦が忽然と消え、その後、捜索に出た何人かが、行方知れずとなった。
鬼の関与が疑われ、鬼殺隊の出番となったのだが、何人かの隊員が山に調査に向かい、その全員が消息を断っている。
十二鬼月の可能性がある為、お館様の命で、柱の錆兎が赴くことになったのだ。
内容を確認し終わると、錆兎は男に向かって言った。
「安心してください。鬼は必ず、俺達が退治します。」
錆兎が安心させるように穏やかに微笑むと、男は「お願いします。」とコクリと頷いた。