第12章 二人だけの…
錆兎がチラリと、音羽を気にかける視線を向ける。
「でも、お前はいいか?せっかく二人だけの…初めてデェトだったんだが……」
伺うように問いかけると、音羽はきょとんとした表情を浮かべた。
「そんなこと気にしてたの?いいわよ、仕事が優先だもの」
そう、あっけらかんと答える。
「音羽、お前……」
そう言ってくれる女だからこそ、お前を選んだ。と錆兎が微笑む。
と、格好良く言いたいのだが、心の内ではそんなにきっぱりと言い切られると少しだけ悲しい気分にはなるのはどうしてだろうか?
錆兎が気づかれない程度に項垂れると、音羽はコホンっと小さく咳払いをした。
「それにもう充分、その…楽しかったから(お腹いっぱい食べさせて貰ったし)……だから錆兎、今日はありがとう」
「音羽……」
「それに、また…来ればいいじゃない?」
そう言って俯いて照れる音羽の顔が、ほにゃっと可愛らしく緩む。その瞬間……
ドクンっ!
錆兎の心臓が勢いよく跳ねた。思わず胸を抑えると苦しげに「うっ!」と呻くくらいに。
(か、可愛すぎる……)
一瞬、立場も責務も全て忘れて、今すぐにでも音羽を屋敷に持ち帰り、めちゃかちゃに抱き潰してやりたい衝動に駆られるが涙を飲んで我慢する。
錆兎は代わりに音羽の頭を撫で撫ですることで衝動抑えると「じゃ、取り敢えずその屋敷に行ってみるか」と声を掛けた。その応えに音羽が頷く。
そして二人は件の屋敷へと向かった。