第11章 恋焦がれて※
錆兎が風呂から上がり、寝室に入ると、音羽は敷かれた布団の横に静かに正座して待っていた。
「何してんだよ、そんなところにいたら、湯冷めするだろ?布団の中で、待ってればよかったのに。」
まだ秋と言っても夜はもう寒い。心配して問いかけると、音羽は瞳を閉じて小さく答えた。
「ちょっと身体が熱かったから、冷やしてたの。それと心頭を滅却して、心の準備を……、」
修行僧か?
そう言って、もじもじと身体を動かす音羽を横目に、錆兎は掛け布団を捲り、布団の上に座り込むと手を差し出した。
「ほら、来いよ。」
それでも少し戸惑うように躊躇する音羽の手を掴むと、自分の方へ引き寄せた。
「きゃっ!」
小さく悲鳴を上げて、瞬く間に錆兎の胸の中にすっぽりと収まる。
「やっぱり、冷たい身体してるじゃないか。せっかく風呂入って温まったのに。」
「………」
「それとも俺に、こうして温めて欲しかったのか?」
「ちがっ…、」
自分の腕の中に包まれた音羽の背中を、優しく撫でてやると、観念したかのように大人しくなった。
「俺は上がったばかりだからな。お前の温度、冷たくて気持ちいい。」
私は反対に暖かくて、気持ちいい。
そう言いかけて、口を噤む。その代わりに錆兎の背中に手を回すと、心頭滅却しながら頭の中で何度も反復した通りにもじもじと身体を擦り寄せた。
その行動に、錆兎が驚いた顔を見せた。
「どうした?急に積極的になったな……、」
「これは…その……、あ、甘え…てるの……、」
錆兎の腕の中で、恥ずかしそうに顔を埋めて、消え入りそうな声で答える音羽に、顔がニヤけそうになる。
(……可愛い。)