第9章 水際の攻防
時刻は、子の刻。
人の出入りを制限された浅草・瓢箪池の辺りは静寂に包まれていた。
そんな人気のない通りの、池の周りを囲うように張られた鎖のすぐ傍に、ポツンと佇む、血塗られた音羽ちゃん人形。
その姿を、各々の定位置に着いた音羽達鬼殺隊士が固唾を呑んで見守る。
その時は、突然訪れた。
バシャンっ!!
軽く跳ねるような水音と共に、音羽ちゃん人形の身体がフラッと揺れた。
「今だ、引けっ!!」
池の向かい側、建物の屋上で作戦の陣頭指揮を取っていた天元が合図を送ると、縄を握っていた男子隊員と隠達が一斉に縄を引く。
すると、音羽ちゃん人形が鎖に身を乗り出す形で止まった。しかしその直後……、
ズリっ!!
さらに強いで力で縄を引かれ、音羽ちゃん人形が池の中へ、ボチャンッと音を立てて飲み込まれた。その力強い引きに、縄を持っていた男隊員達が次々とドミノ倒しのように崩れていく。
「みんなっ!」
このままでは隊員達ごと、池の中に取り込まれる。別の隊で事の成り行きを見ていた音羽は、縄を引く隊員達の元に走り出した。
すぐさま縄引き隊の最後尾に回って、縄を掴んで引くが、勢いが衰えたの一瞬ですぐに強い力で引かれる。
「なにこれ、強っ!!」
縄を切る方が良かったか?それとも全員で手を離す方が得策か?
そう考える音羽と、縄を掴む隊員達が引き摺られるように池へと近づいていく。そうこうしてるうちに、先頭にいた隊員が鎖の上に、身を乗り出した。
「もう駄目っ!みんな、縄から手をっ…、」
離してっ……、音羽がそう言い掛けた時だった。
突然、縄がふわっと軽くなる感覚と共に、縄に掛かっていた力がスッと無くなった。そのせいで、後ろに重心を掛けていた音羽は感覚を失って背中から転びそうになる。
その背中を支えるように、何かがぶつかった。