第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
兼続「!!!!!」
無反応だった人がパチッとその目を開き、くすぐられた箇所を手でおさえた。
(やった、成功した!)
素直な反応に悪戯心が歓喜している。
「ふふ、ごめんなさい。あまりにも反応がないから…!
くすぐったかったですか?」
頬も耳たぶもピンクに染まって明らかに動揺している。私は上機嫌で耳かき棒をクルクルさせた。
兼続「可愛い企みごと……そうか、これがそうなんだな。
はぁ……少しの間それを貸してもらってもいいか?」
「え?はいどうぞ」
妙な迫力に押されて耳かき棒を渡したのが運の尽きだった。
膝に兼続さんを乗せている私は多少前後に体を動かせるだけ。そこを狙われて私の耳たぶを梵天でコチョコチョされた。
「や、やだ、くすぐったい!あははっ、やめてくださいってば!」
後ろに倒れて逃げようとしたけど、兼続さんの腕は長い。余裕で私の耳をコチョコチョしてくる。
兼続「仕返しは倍で返さなくては割に合わない」
「わー――、もうしませんからぁっ!ひゃはっ、あははっ……!」
こうして敵陣の城で死ぬほど大笑いをして、私は帰路へとついた。
信玄様は幸村に引き留められてしまい、結局一緒に帰ったのは佐助君だった。
佐助「謙信様が冬が来る前にまた来てって言ってたよ。
信長様は耳掃除禁止令を出したけど、範囲を日ノ本に指定していないから越後では無効だってさ」
「うん!まとまった休みがとれるようにしておくねっ!
私のホームグラウンドは安土だけど越後も大好きになっちゃった」
佐助君は嬉しそうに笑って帰っていき、その次の日には私宛に大量の梅と赤ジソが届いた。
梅仕事にヒーヒーいっている私を政宗と蘭丸君が『一人でやるには多すぎだろう』と手伝ってくれて、なんとか梅が新鮮なうちに仕込みを終えられた。
その量は毎日食べたとしても何年もかかりそうな量だった。
これはきっと『できたら持ってきて』という意味がこめられているんだろう。
「ふふ、私の初梅干し♪
春日山の皆は喜んでくれるかなぁ?」
手元には夏にぴったりの反物が残り、私はそれを小袖に縫いながら時折思い出し笑いをして過ごしたのだった。
END