第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
謙信様が近くの支城に出かけて行ったある日のこと。
「あっ!!!!
……あーあ……やっちゃった」
完成間近だったのにプレゼント用の手袋に、思いっきりお茶をこぼしてしまったのだ。
マジでやってしまった。何やってんの私。
「謙信様が居ない時しか作れないって焦ってたからなぁ…」
私の恋人は馬に乗ることが多く、だから手の平側を丈夫にしようと本革にしたのがまずかった。
手の甲側の布部分は洗濯が必要だけど、革製品である以上洗えない。
「これは誕生日プレゼントにできないな…」
片手でつまんだ手袋が空中で空しく揺れ、ポタポタとお茶の雫を落としている。
今までかかった製作時間を考えると、作り直している時間はない。
「手袋は諦めて、来年にするしかないか……」
それなら代わりに何をプレゼントしよう?だ。
手芸用品等々を入れている引き出しを漁ってみたが閃くものがなかった。
それでも何か無いか引き出しの奥を漁っていると、
佐助「舞さん、ちょっといい?」
「佐助君?散らかってるけど、どうぞ」
佐助「お邪魔します」
直ぐに襖が開いて佐助君が入ってきたので、私は引き出しを閉めて座りなおした。
佐助「その手袋はもしや…」
佐助君は私が誕生日プレゼントに皮手袋を作っていたのを知っていたから、空になった湯呑茶碗とびしょ濡れになっている手袋を見て事態を察してくれたようだ。
自分の中のガッカリを未だ処理できなくて力なく笑った。
「作り直そうかと思ったけど間に合わなさそうだから…、違うものを作ろうと思っていたところなの」
佐助「そうか。よく出来ていたのに勿体ないな」
眼鏡の奥の目が気の毒そうに細められた。
「うん、でも仕方ないよ。材料は残ってるから来年の誕生日に再挑戦するつもり!
問題は今年のプレゼントを何にしようかと思って」
佐助「舞さんは前向きなんだな」
そう、前向きに考えよう。
1年もあればこだわり抜いた手袋を作れるだろうから、いつまでも落ち込んでないで次だ、次。
「今日を合わせると7日か。
そんなに凝ったものは作れないし何にしよう、うーん…」
針子の仕事が立て込んでいる。今日はたまたまお休みだっただけで明日からは忙しくなる。