第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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日が変わり、信長様との飲み比べが始まった。
天主は人払いをされて私達以外誰もいない。
『何が起ころうとも舞が部屋を出るまでは誰も来るな』
階段下と、その付近までも人払いする徹底ぶりに、光秀様の心配は大げさじゃなかったんだと不安が膨らんだ。
光秀様は……御殿で待機するよう安土城から使者がやってきて、数名の見張りがついた。
今夜のお酒はスッキリとした口当たりで、喉を過ぎるとカッと熱くなるような強い酒だ。
(少ししか飲んでいないのに頭がクラクラする)
昨日のお酒も残っているし、何しろ昨夜はあまり寝ていない。
今夜を乗り切るためにも酔っている場合じゃないのに、確実に今私は酔っぱらっている。
目の前の信長様は顔色ひとつ変えていないし、勝敗はもう決まっているようなものだ。
信長「して、なぜ今宵も同じ着物を着てきた?」
(きた……。やっぱり聞かれるよね)
秀吉様も昨日と同じ格好で登城した私に目を瞠っていた。
同じ着物を着ていけと言われた時から光秀様の意図はわかっていたけれど、秀吉様の反応や、いざ信長様に指摘されると甚だ恥ずかしい。
「さ、昨夜は家に帰らなかったものですから、恥ずかしながら着替えがなく…」
信長「家に帰らずどこに行った?」
膝に乗せた拳に力が入った。
「……片恋していた方のところへ」
信長「昨夜どんな男にも応える気がないと言っていたが、貴様は俺に嘘を吐いたのか」
緋色の視線と低い声に身がすくみ上がった。
怖いけど、ここはきちんとお話しなければ先に進まない。
着物の袖に触れて気持ちを奮い立たせた。
「お許しください。少なくとも昨夜私がお伝えした時点ではその気はなかったのです。
帰り道、この着物を贈ってくださった方が現れて、お互い想い合っていたと知りそのまま…」
信長「そのままどうした?」
「……枕をかわしました」
信長様はフッと笑い、盃を脇に置いて手招いた。
(身体を検(あらた)めるおつもりかしら…)
検められても大丈夫なように抱いてもらったけれど、でも…、恋仲以外の男性に触られるのはやっぱり受け付けない。
「お酒が回って…、転んでしまいそうです」
信長「ならば俺が行こう」
「え?」