第23章 不香の花(謙信様:誕生祝SS2023)
「謙信様、お誕生日おめでとうございます」
城をあげての宴は終わり、謙信様のお部屋に戻ってきた私達は寄り添うように座っている。
謙信様の晴れ着がフワフワと頬に当たって気持ちいい。
謙信「ありがとう、舞。だが祝いの言葉は朝から何度目だ?」
「朝昼晩、あ、おやつの時間と…宴の前と今とで、6回目ですね。
ふふ!だって嬉しいんです。謙信様が生まれてきてくれて」
謙信「生まれた日になんの意味もないと思っていたが、毎年舞が祝ってくれるようになり認識が少し変わった。
相変わらず俺の生まれた日に興味はないが、お前が生まれた日は特別だと、そう感じるようになった」
「自分の誕生日も特別に感じていただけたら良いですが、そう言う私も、自分よりも謙信様の誕生日の方が格別の、特別だと思っています」
謙信様が私の頭に頬を押し当てて、嬉しそうに言った。
謙信「自分をないがしろにしているわけではないが、舞は何にも代えがたい存在だ。
それゆえお前が生まれてきた日が愛しく、特別に思えるのだ」
「ふふ、こう言って恐れ多いですが似た者同士ですね」
謙信「恐れ多くなどない。俺と舞は同等の存在だと、何度言えばわかる?佐助や幸村に接している時のように態度も口調も崩してもらいたいものだが」
「謙信様にため口はまだ…。でも時々敬語が崩れる時があるので、そのうちため口になるかも?しれませんね」
「あと何年共にいればそうなるか、楽しみだな」
生き急いでいた謙信様が未来を夢見て笑っている。嬉しさで胸がキュッとなった。
謙信「似た者同士か…。一日の大半を共に過ごせば思考が似てくるのも道理だ。俺の誕生をここまで喜んでくれるのはお前くらいしたものだ」
「私だけじゃないですよ。さっきの宴で家臣の人達が熱烈に祝ってくれたじゃないですか」
謙信様が宴を思い出すような遠い目をして、やや呆れ気味に息を吐いた。
謙信「そうだが……妙に暑苦しくてかなわん」
「謙信様がたくさんの人にお祝いしてもらっているのを見ると、私は嬉しいですよ、ふふ」
1人でおめでとうでも全然イイけど、たくさんのおめでとうは嬉しさが倍増する。
宴に参加していた人たちは皆良い顔をしていて、思い出すだけでまた嬉しくなった。