第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
「竹~?謙信様のお膝で寝ちゃうの?可愛いなぁ」
クスクス笑う声は幸せの欠片。
「うさぎ達が可愛いすぎて困っちゃいます」
上目遣いをする瞳は黒く艶やかで、夜空に星が瞬いているようだ。
謙信「俺は……誕生祝いにとんでもない物を手に入れたな」
「え?雪ウサギの枕がそんなに気に入りましたか?へへ、嬉しいです」
愛らしすぎて困るのは兎ではなくお前だ。
謙信「あれはあれで気に入っているが、とんでもないものとは舞のことだ」
舞の方に身をかがめると、居場所が急に狭くなった竹が慌てて膝から降りた。
口付けの予感に舞が瞼を下ろす。
青々とした香りが鼻先をかすめ、濃い緑の葉が脳裏に浮かぶ。
(ついこの間二人で見た桜はもう散ってしまったか…)
草が揚々と伸び、蝉がせわしい夏が来たら山城に連れて行ってやろう。あそこは涼しく、暑いのが苦手なお前には快適な場所となろう。
山々が緑衣を脱ぎ始める早秋まで二人きりで過ごせたらいいが、働き者の舞は退屈するだろうか。
移りゆく四季を舞と共に過ごしたい。
季節が変われば咲く花も、採れる物も変わる。舞に着せる着物を選ぶ楽しみもある。
生きながら死んでいた己が、先を楽しみに待つなど考えられなかったことだ。
(舞のおかげだ)
唇に舞を感じ、その柔らかさに酔いしれる。
誕生日を迎える度に思い出すだろう。
雪降る夜に初めてこの唇に触れたのだと……
END