第22章 あの夜に触れたもの(謙信様・誕生祝SS)
(謙信目線)
季節は巡る。
ひと回りしてまたひと回り、どこから始まりどこで終わるのか誰も知らない自然の巡り。
移ろいゆく色とともに季節は変わっていく。
以前の俺はそれさえも忘れて戦に明け暮れた。
愛する女が死んだあの日に破れた心は、とうに時を刻むのをやめていた。だから四季の色が変化しようと何も感ずることはなかった。
奥底に仕舞いこんだ伊勢の記憶
守れなかった無力感と絶望
いくら季節が巡ろうが薄れることはなく、黒く濃縮された闇は内側を侵食し、人知れず病んでいた。
血が湧きたつ戦場で数多の命を刈り取った。
俺の目の前に立ったというだけで刈り取られた命に何の罪があっただろうか。
無意味に人を殺したならば、いずれ俺も誰かに訳なく殺されるだろう。
それが俺の望みだった。
伊勢の後を追うこともできず、仏の道に戻ることもできず、戦いの中に死に場所を求めていた。
死ななければならないと悲壮な情熱を持っていたのだ。
俺の心に蔓延る闇は到底誰にも手出しできない深淵なる闇。
流した血と涙に風が吹きつけて跡だけが残り、跡の上にまた跡が残っていく。
季節が巡ろうと変わらず荒れきったまま。
生が失せた心は二度と蘇らない。そう思っていた。