第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
政宗「ここまで聞いて、聞かなかったふりはナシだ。
舞が、『帰るところも家族も居ないから誰かに嫁に貰って欲しい』なんて、しおらしいこと考えてたなんて知らなかったな。
それで?『偉い方』ってのは誰だろうなぁ?俺なら大歓迎だ」
「えっと、その……」
政宗の通訳でようやく信長も状況を察し、ずいと一歩前に出る。
信長「貴様が嫁に貰って欲しいのはどいつだ。
その辺の馬の骨にやるつもりはない」
「出た!お父さん発言!」
商人の女は『舞ちゃんはめんけえから、けたぐねえのもわがるなぁ』とニコニコしている。
さっぱり言葉が理解できない信長は、この際商人の女を無視することにした。
いちいち政宗が通訳するのを待っていては、話の流れに乗り遅れる。
信長「早く言え。偉いというならば、秀吉、光秀、政宗、家康あたりか。
だが三成と慶次もこれから出世するやもしれんぞ?」
「う……」
信長「誰のことだ」
信長が問い詰めるほど舞は顔を赤くして、じりじりと後ろに下がっていく。
先程できたと喜んでいた刺し子の布は、握りしめられてぐしゃぐしゃになっている。
「心の準備ができてから…ではダメですか?」
信長「待つ気はない」
舞は羞恥で顔を赤らめながら嘆願したが、信長に一蹴された。
政宗に助けを求めようとしたが、政宗も『言うまでここを辞さない』という顔をしていて、諦めた。半分面白がっているのがみえみえだ。
女「いんやぁ、舞ちゃん、貰い手がいっぺえ居て、いがったなぁ。
安心だぁ。ちょっとおれ、すわっからな。はーー、こえぇなぁ、こえ、こえ」
女は『よっこらせ』と、どっかり座り込み、興味は走り回っている子供達に移ったようで、『めごいなぁ』と笑っている。
話の腰を折られ、信長が不機嫌そうに視線を送っている。
信長「………あの商人の女は、なにが怖いと言っている?」
「え?怖い?………ぷ、やだ、信長様、ふふふっ!」
舞が『違いますよ~』と笑う間、信長の後ろで政宗もこっそり笑っている。