第21章 姫は間諜?(隠語・難易度1)
その疑惑が浮上したのは年の瀬が迫っている頃だった。
信長「何?舞が他所から流れてきた者と密会しているだと?」
天主で報告を受けた信長は、隠密の男を冷ややかに睨みつけた。
舞は警戒心がまるでなく、一人で歩かせると城から3歩といかないうちに攫われる。
攫われては取り戻すを何度も繰り返し、呆れかえった信長は舞に護衛をつけた。
付き従う護衛の他に、影から守る隠密を数名。
その隠密のうちの一人が、今、信長の御前に跪いている。
威圧を含んだ眼差しに、表情を変えずとも隠密は恐れ慄いた。
同席していた秀吉と政宗も『密会』という穏やかではない単語に、それぞれ表情を変えている。
秀吉は眉間に深い皺を寄せ、政宗は面白いことになったと口の端を持ち上げた。
秀吉「詳しく話せ」
一言に密会と言っても、人目を忍んだ逢瀬や密談など様々なのだが、舞がひと時の情事を楽しんでいると誤解した秀吉は、険しい顔つきで問いただした。
男「はっ、舞様は3日前、城下で流れの商人に自ら話しかけました。
身なりは良くありませんが、最初から何やら親しげに言葉を交わし、昨日と今日は待ち合わせをして会っております」
秀吉「会っているってのは、まさか連れ込み茶屋とか…そういう場所か?」
信長と秀吉の目が一層鋭くなり、隠密の男の喉がごくりと動いた。
もう秀吉は舞と商人が『そういう仲』だと決めてかかっているようだ。
男「いえ、商人は女です。会っている場所は城下から少し外れた小さな寺の境内で、子供達の遊び場になっております」
秀吉「そんなところで話しているのか。
舞が話している間、護衛はどうしている?何を話しているのか聞いたか?」
とりあえずは男女のアレコレではないようだと、秀吉は乗り出していた身を落ち着けた。
隠密の男は『それが…』と言葉を濁した。