第18章 生き標(謙信様)
貴方に初めて会った時、まるでひと筋の光が差し込んだようだった。
胸に抱えていた暗い靄(もや)が、あなたという輝きに吹き飛ばされて跡形もなくなった。
戦国時代は、生まれ育った自分の時代とはあまりにも違い過ぎた。
部屋を一歩出れば、男性は腰から刀をさしているのが当たり前で、現代の物差しで何か言えば無礼だなんだと叱られた。
城下に出れば盗みや人さらいは日常茶飯事。死体が転がっているのも何度も見た。
無理矢理連れて行かれた戦では、人の命が羽のように軽く、簡単に刈り取られた。
望んで戦国時代にきたわけじゃない。
目の前の現実が怖くて、叫びたくて、でも何もできなくて平然を装うしかなかった。
無理矢理連れてこられた安土城に居場所なんてなくて、毎日暗澹(あんたん)とした気持ちを胸の奥に押し込め、溺れるような息苦しさと戦っていた。
ゲームの世界の主人公なら、現実に立ち向かっていっただろうけど、私はそんなに強くない。
だからと言って、すぐ潰れるほど弱くもなかった。
たまたま立ち寄った食事処で、ご主人が乱暴されそうになった時、咄嗟に身体が動いた。
お店の主人に乱暴しようとしていた男に殴られそうになっても、どうにでもなれという気もちだった。
こんな危ない時代で、身分や男女の格差がある時の中で、どう生きたら良いのかわからなくなっていた。
(殴られたって、怪我したって平気。もう……どうでも良い)
命を粗末にしようとしたことなんて今までなかったのに。
あの時の私はそのくらい思い詰めていた。
私と暴漢の間に入ってくれたあなたを見た瞬間、息が出来なくなった。
少しクセのある低い声に鼓膜が痺れ、つまらなさそうに、でも優雅に刀を振るう姿に見惚れた。
謙信「怪我はなかったか」
鋭い二色の瞳は宝石のように綺麗で、雷に打たれたような衝撃を受けた。