第16章 輝く世界(慶次)
私が最後に見たモノは、自分が吐き出した真っ赤な血だった。
「うっ!」
身体を襲った異変に身をかがめると、お吸い物のお椀が手から滑り落ちた。
汁は畳に染みこんで三つ葉や小さな麩が散らばった。
身体を巡る毒々しい感覚に、気が付けば畳に倒れていた。
秀吉「舞っ!?誰かっ、医者を呼べ!」
家康「俺が見ますっ。舞っ、しっかりして」
光秀「この広間と城の出入りを直ちに止めろっ。ネズミ一匹逃すな」
家康に胃を圧迫されて内容物を吐き出した。
さっき口にしたばかりの食べ物と一緒に、血が混ざっていた。
(な、んで…)
「…ゴホッ!」
続けてむせると血だけが出てきた。
胃や食道が灼けるように痛い。
身体に入りこんだ何かが、大事なものを壊しながら広がっていく。
「ぐっ、はぁっ!……うぅっ」
のたうち回ろうとする身体を押さえつけられた。
(離して!自由にさせてっ)
叫ぼうとして開いた口から、また血が吐き出された。
「う…」
吐いた血の量に自分は死ぬんだろうなと覚悟した。
家康「舞、飲んで」
「っ!?ごほっ!」
強引に水を流し込まれ、痙攣した胃が水を外に追い出した。
水を飲まされて吐く。繰り返される拷問のような行為。
苦しくて、今すぐ殺して欲しいと思った。
政宗「いいぞ、全部吐き出せ」
近くで政宗が励ましてくれている。
(もう吐けない……よ……)
生が抜け落ちていく。
熱く苦しかった身体が冷たくなっていくのを感じながら、私は意識をなくした。