第10章 姫がいなくなった(幸村)
舞が大事に育てていた花が、じきに咲きそうだ。
鉢の中で冬越えし、小さな芽を出した時には凄く喜んでいた。
だけど俺はその花を見ると『あの男』を思い出すから、あまり好きじゃない。
だから舞が、芽が出た、葉っぱが増えたと話してくれているのを、フーンとしか返事ができなかった。
今思えば器の小さい男だった。
姿を消す前に、生返事ばかりする俺に舞は頬を膨らませていた、
「幸村って本当に花とかそういうの興味ないよね」
興味がないわけじゃない。
梅や桜を見れば風情があるなと感じる。
舞が育てていた花だって、つまらない劣等感を捨て去れば純粋に綺麗で可愛い花だと思う。
幸村「はぁ……、なんで……行っちまったんだよ、舞」
舞が突然居なくなってしばらくになる。
朝、いつもの時間に女中が起こしに行ったところ、褥はもぬけの殻だった。夜の間にさらわれたかと思ったが、いくら足取りを調べても手掛かりは得られなかった。
もしかしたらと佐助に調べてもらったところ、舞が姿を消した日の夜中、ワームホールが上田城上空に開いたらしい。
寝ているところを突然ワームホールに連れ去られた可能性が高いと言われ、悔しくてならなかった。
毎日同じ寝室で寝ていたのに、あの夜だけ、仕事が遅くなるからと別々の寝室で眠った。