第9章 姫がいなくなった(家康)
(家康目線)
夢のない眠りから覚めると、いつも隣で寝ていた舞は居ない。
二人で寝ていた時は狭かった褥が、やけに広く感じた。
廊下に声をかけると、女中が朝の仕度に使うお湯や道具を用意してくれた。
その間に着替えを済ませる。
突然舞が姿を消してから、もうすぐひと月が経とうとしていた。
安土とその周辺を捜索しても見つからず、捜索の手を広げても未だに見つかっていない。
いくら探しても見つからないだろうと、何故か確信があった。
『あの娘(こ)の存在をこの世に感じない』と言えば良いのかもしれない。
身支度を整えて朝餉をとる。
舞という唯一の存在を持った時に、失うことを恐れ、愛する人を守るために強くあろうと誓った。
一度手にした温もりを失ったら俺は狂うかもしれない。
そう思っていたのに、俺はこうして一人淡々と日々を送っている。
舞が現れる前の生活に戻り、心を病むでもなく、食欲を落とすでもなく、本当に淡々と日常を過ごしていた。
時々それが……無性に苦しかった。