第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
「お二人のお気持ちはわかりましたが、何もいきなり口づけから始めなくてもいいじゃありませんか!」
謙信「ならば和歌を詠み、花を添えて舞に送ろうか?」
「う…」
戦国時代の求愛としてはその辺から始めるのが妥当だが舞は崩し字が読めない上に和歌の知識もない。和歌を貰うたびに字を調べ、表向きの意味と裏の意味まで読み解いていたら恋文で胸を高鳴らせるどころじゃない。
そんな効率の悪いことをしていたら1年なんてあっという間だ。
口ごもった舞に信玄が優しく笑いかけた。
信玄「俺達は恋敵が居るうえに時間がないんだよ。
恋の手順書を一からなぞっていたら、君に気持ちを伝えられないうちに時間がなくなる、そうだろ?
だから口づけて愛を囁くのが一番の方法だ」
長く温かな指が舞の頬をソロリと撫ぜる。
信玄「もう一度しようか。
経験不足のむっつりより俺の口づけの方がいいだろ?」
「経験不足…?いえ、その前にもう一度ってなんですかっ…!」
恋人でもない男にそう何度も唇を許していられないと、舞は口元を覆い隠したのだが、信玄は艶っぽい唇を手の甲や指の関節、爪にまで柔らかく押し付けた。
むずむずとこそばゆい感覚に舞は悩ましい反応を懸命に耐えているが、その手にゆるみが生じたのを信玄は見逃さなかった。
信玄「ああ、言うのを忘れたな。すぐに絆(ほだ)されない君も好きなんだ。
こうして可愛らしく隙だらけなのもな…」
信玄は緩んでいた手を顎でグイとどかし、驚き見開かれた目を見てフッと笑んだ。
獲物を捕らえたと男性的に笑う相手に、不覚にも舞は胸をドキリとさせ、そのままあっさりと唇を奪われてしまった。