第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
謙信「花見の席で俺はお前を愛していると言ったはずだ。
例え明日ワームホールが開こうとも返事をもらうまでは城から出さん」
「………っ」
息をのむ舞の顎に太い指が添えられ、顔の向きを謙信から信玄へと強制的に導かれた。
漆黒の瞳に目をみはっている舞が写っている。
信玄「君のことを気に入っているのは謙信だけじゃないよ。
俺も舞のことを愛しいと思っている。だがムリに摘み取れば枯れてしまう花を、俺の腕の中で活かせる方法がわからずにいるんだ。
どうしたら良いだろうな?」
「え……信玄様が?」
信玄「ああ。もうずっと舞だけを見てる」
信玄の口調はいつも通り穏やかだが、隠しきれない熱情が伝わってくる。
舞はしばらく悩んだ末におそるおそる口を開いた。
「ここ1年は現代に帰ることを目標に考えていて、あとは誘拐とかそんなのばっかりで気が塞いでいたんです。
だからお二人のこと、その…きちんと考えたいので少しお時間をいただけませんか?
来年の春はお二人に桜餅と桜茶を出すとお約束いたします」
謙信「あと1年待てと言うのか」
「い、いえ!なるべく早くお返事したいなと思っていますが、その…色々と気持ちの整理がつかないので、とりあえず来年の春と言っただけです」
戦国時代で恋愛はご法度と思ってきた舞が、謙信と信玄を恋愛対象として見るのはこれからだ。いきなり好きだ、愛してると言われて正直とても混乱している。
その辺の理解が早い信玄が気の短い謙信を宥(なだ)めた。
信玄「謙信、待ってみようじゃないか。
浮き花がここに根をはろうか熟考(じゅっこう)したいと言ってるんだ。急(せ)いて無理に手にすれば、花であろうと草であろうと枯れる。
いつ居なくなるかと気を揉んでいたが、少なくとも1年後の春まで期限が確約されたんだ。良しとしよう」
1年と言ったが舞の様子から返事はもっと早くもらえそうであり、加えて来年の春まで居るという約束付き。
ワームホールの発生率を聞くたびに胸を撫でおろしていた謙信としてはひとまず安心できる好条件だ。