第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
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(姫目線)
佐助「舞さん?」
桜を眺めて感慨に浸っていたら遠慮がちに声をかけられた。
心配をかけないように謙信様達から見える場所に居たけれど、迎えが来たってことは心配をさせてしまったんだろう。
「迎えにきてくれたの?ごめん、1人になったの久しぶりだったからつい長くなっちゃった。
そろそろ戻るね」
佐助「もう少し居ても大丈夫。
みんな襲撃の心配をしていたから俺が居れば安心すると思う」
こんな大勢の目がある場所で襲撃なんて、と現代に居た頃なら思っただろう。
しかし人目がある所で襲われたことが1度や2度ではなく、この時代の誘拐はかなり大胆とも言える。
春日山城の居候するようになってしばらくして『上杉謙信が城に住まわせている女は恋仲にちがいない』と嘘っぱちな噂が流れ、私は警戒の目をくぐって何度も誘拐されるようになっていた。
私を人質にして謙信様に味方につけとか、城を渡せとか、ありえない要求をする人が後を絶たない。
謙信様や信玄様の手回しがいいから大事に至っていないけれど、いつか不利な条件を飲まざるを得なくなるかもしれないし、私自身も慰み者にされるか殺されるか、どうなるかわからない。
戦国時代とはそういう時代。
ふと怖くなって現実逃避するように桜を見上げた。
邪(よこしま)なことを欠片も知らない花達を見ていると、少し元気になれる気がした。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えてもう少しここに居てもいいかな。
お花を見ていると元気が出るんだ…」
佐助「隣に居てもいい?邪魔なら木の上に居るけど」
「え、木の上!?それだと危なくないか気になって仕方ないよ。
ここにどうぞ」
舞は隣のスペースをポンポンと叩き、佐助が座ったのを見て山の斜面を指さした。
「あっちの斜面に菜の花が咲いてるでしょ?
手前には桜が咲いてるし、すごく綺麗だなって……。ずっと見ていても飽きないんだよね」
佐助「ほんとだ。今日は晴れてるし、桜と菜の花の色が綺麗に見えるな」
「でしょ?それにさっきまでこの木の枝にウグイスかメジロかわかんないけど黄緑色の鳥がいて賑やかだったの!あ、ほら、あそこに居るっ!見えた?」
枝から枝へと黄緑色の鳥が可愛らしく跳ね飛ぶのが見えたけれど、動きが早すぎて見分けられない。