第5章 姫がいなくなった(元就さん)
船員1「おい、最近お頭の様子がおかしいと思わないか?」
船員2「そうそう!俺もそう思った!」
「前より雰囲気が柔らかくなったよね~」
船の片隅でひそひそと話している三人の背後に影が忍び寄ったが、三人は気付かずに話を続けている。
「素敵だよね~。元就さんって意外と……はぁ」
船員1「頭(かしら)が『意外と』なんですか?」
船員2「ごく……」
元就「てめえら……随分と暇そうだな」
船員が謝る前に舞が元就に笑いかけた。
「元就さん!朝、会ったきりなので会えて嬉しいですっ!」
元就「……そんな顔で喜ぶくらいなら、会いたい時に会いにくればいいだろうが」
「だって邪魔になるかと思って……」
元就「いつでも来ていい」
船員1「………(甘っ!!俺達が居るのを忘れているんじゃ…)」
船員2「………(堂々といちゃつかれて、かえってこの場を去りにくい……)」
元就「早く持ち場に戻れ」
以前ならばギスギスした態度で脅されるところを、普通に促されただけだ。
あまりの違いに二人は舞の存在の有難さを感じた。
船員1「姐さん、ずっとこの船にいてくださいね」
船員2「姐さんは、幸運を呼ぶ女神様のようです」
「ふふ、ありがとう。もちろんです!」
二人が去ると元就の手が腰に巻き付いた。
耳元に唇が寄せ、舞にだけ聞こえるように囁いた。
元就「ずっと傍に居ろよ。舞」
「はい、約束です!」
元就の目論見があたったのか、愛し愛され、やがて新たな実を結んだ舞は、それ以降、消えて居なくなることはなかった。
元就の誕生日には『誕生日と両想い記念日だ』と毎年張り切ってお祝いし、それを呆れながらも共に過ごし、笑う元就の姿があった。
END